この記事のポイント
  • 2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円で、13年連続の過去最高
  • 英国ではラーメン、カツカレー、抹茶、柚子、味噌など“日常化した日本食”が広がっている
  • EU・英国では、肉・乳・卵などの動物由来原料を含む食品、添加物、アレルゲン表示に厳しいルールがある
  • 日本で売れている商品ではなく、現地で選ばれる商品を、現地の人の声で決める

日本食は、欧州で“日常”になりつつある

農林水産省の発表によると、2025年の日本の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円で、13年連続で過去最高を更新しました。背景には、海外での日本食への関心の高まりと、訪日観光で日本の味を知った人の増加があります。

ロンドンで暮らしていて実感するのは、日本食が「特別な日の外食」から「普段の食事」へ移ってきていることです。

  • ラーメン店やカツカレーは、英国の若い世代にとってすっかり定番のメニュー
  • 抹茶は、カフェの定番ドリンクとして広く浸透
  • 柚子、味噌、醤油、ごま、七味などの調味料が、家庭料理や一般のレストランでも使われる
  • 日本酒や日本のウイスキー、日本茶への関心も、専門店を中心に広がっている

ただし、英国で人気の「日本食」は、日本人が思う日本食と少し違うこともあります。現地でどう受け取られ、どう食べられているかを知ることが、輸出の第一歩です。

欧州・英国の食品規制:ここでつまずく

1. 動物由来の原料と「複合食品」

EUと英国では、肉、乳製品、卵、水産物などの動物由来の食品は、認められた国・認められた施設からしか輸入できません。さらに見落としやすいのが、植物由来の原料と動物由来の原料を組み合わせた「複合食品」です。ラーメンスープ、カレールウ、乳成分や卵を含む菓子など、日本では何気ない加工食品が、原料の由来証明や衛生証明書を求められることがあります。

2. 添加物

EUと英国には、使用できる食品添加物のリストがあり、日本では認められている着色料や保存料の一部が、欧州では使えないことがあります。レシピの変更が必要になることもあるため、早い段階で原材料をすべて洗い出して確認してください。

3. ノベルフード(新規食品)

EUでは、1997年5月以前に域内で相当程度食べられていなかった食品や原料は、「ノベルフード」として事前の承認が必要です。日本では伝統的な食材でも、欧州では該当する場合があります。

4. 表示

原材料、14品目のアレルゲン(強調表示が必要)、栄養成分、正味量、賞味期限、保存方法、原産国、輸入者(EU・英国内の事業者)の情報を、販売国の言語で表示する必要があります。英国なら英語、ドイツならドイツ語です。日本語のラベルに英語のシールを貼るだけでは、要件を満たさないケースも多くあります。

原発事故関連の輸入規制は撤廃済み

英国は2022年6月、EUは2023年8月に、日本産食品への輸入規制をすべて撤廃しました。以前の情報のまま「証明書が必要」と思い込んでいる方もいるので、最新の状況を確認してください。

「何を持っていくか」を、調査で決める

規制をクリアしても、売れなければ意味がありません。私が関わった日本の食品メーカーの欧州進出前調査では、英国在住の対象者を集め、アンケートと座談会を何度も往復して、次のことを決めていきました。

  1. どの商品を持っていくか日本で売れている順番と、英国で選ばれる順番は一致しません。
  2. 味の濃さ・甘さ同じ商品でも、濃度を変えると評価が大きく変わることがあります。
  3. 商品名響き、意味、発音のしやすさ、誤解の有無。
  4. シズル画像どの盛り付け・どの食べ方の写真が「食べてみたい」を引き出すか。
  5. パッケージ日本らしさをどこまで残すか。棚でどう見えるか。

結果として、日本側の想定と英国の反応が食い違った項目が複数あり、いずれも生産・渡航前の段階で修正できました。現地に持ち込んでから気づくのと、決める前に分かるのとでは、かかる費用がまるで違います。

英国・欧州での売り方

チャネル特徴
日系・アジア系の食品卸・専門店取り扱いのハードルが比較的低い。まずは在英日本人やアジア食品に関心のある層へ
高級スーパー・百貨店の食品売り場ブランド価値が上がる。バイヤーの審査と、安定供給・販促の体制が必要
独立系のデリ・食料品店欧州では今も影響力が大きい。卸向けマーケットプレイスで出会えることも
飲食店への業務用販売シェフに使われることで、一般消費者への認知が広がる
EC・越境ECテスト販売に向く。食品は規制と物流の確認が特に重要

欧州では、国際食品見本市(ロンドン、パリ、ケルンなど)に出展し、バイヤーと直接会うことも有効です。ジェトロのジャパンパビリオンを活用すれば、単独出展より負担を抑えて参加できます。

食品輸出は“現地の舌”で決まる

日本の食品の品質は、欧州で間違いなく高く評価されています。ただ、その品質が伝わるかどうかは、商品の選び方、味の調整、名前、写真、パッケージ——現地の人の舌と目で確かめたかどうかにかかっています。

私は、英国での消費者リクルーティング、アンケートと座談会の設計・実施、日本語での分析レポート、そして展示会や販路開拓まで、ロンドンから一貫してお手伝いしています。

ご注意

食品規制は品目ごとに細かく異なり、改正も頻繁です。実際の輸出にあたっては、ジェトロ、農林水産省、輸入者、専門家に最新の要件を必ずご確認ください。

よくあるご質問

日本の食品を英国やEUに輸出するには、何が必要ですか?

品目によって異なりますが、主に①輸入が認められた原料・製造施設であること、②EU・英国で認められた添加物のみを使っていること、③現地の言語で義務表示(原材料、アレルゲン、栄養成分、輸入者情報など)をしていること、④必要に応じた衛生証明書、が求められます。まずはジェトロや農林水産省の国別・品目別の情報で確認してください。

福島の原発事故後の輸入規制は、まだ残っていますか?

英国は2022年6月に、EUは2023年8月に、日本産食品に対する輸入規制をすべて撤廃しています。現在は、原発事故に関連する放射性物質検査証明書などは不要です。

どの商品から輸出を始めるのがいいですか?

動物由来の原料を含まない、常温で日持ちする商品(調味料、茶、菓子の一部、乾麺など)は、規制と物流のハードルが比較的低く、最初の一歩に向いています。ただし添加物や表示の確認は必須です。そのうえで、現地の消費者調査で“選ばれる理由”がある商品に絞り込むことをおすすめします。

Japan Business Insider英国在住30年、英日バイリンガルのプロジェクトマネージャー/デジタルマーケター。ロンドンを拠点に、日本企業の欧州展示会・市場調査・ファッションウィーク運営・デジタルマーケティングを、現地の窓口として支援しています。