- 越境ECの方法は、自社EC・海外モール・国内サイトの海外対応サービス・卸向けマーケットプレイスの4つ
- 英国・EUでは、少額の荷物でも販売時点での付加価値税(VAT)の扱いを決めておく必要がある
- 欧州の消費者には原則14日間の返品(撤回)権があり、日本の「返品不可」は通用しない
- 最初の一国は、言語・物流・規制のハードルで選ぶ。市場規模だけで選ばない
越境ECとは
越境EC(クロスボーダーEC)とは、インターネットを通じて、国境を越えて海外の消費者に商品を販売することです。現地に店舗や法人を持たなくても始められるため、日本の中小企業にとって、もっとも身近な海外進出の入口になっています。
経済産業省の調査では、2024年の日本国内のBtoC-EC市場は26.1兆円、物販のEC化率はまだ1割に届いていません。一方、欧米では日常の買い物の多くがオンラインに移っており、日本の「質の高い、ちょっと珍しいもの」を海外から直接買うことへの抵抗は、年々小さくなっています。
越境ECの4つの方法
| 方法 | 例 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自社ECサイト | Shopifyなどで海外向けサイトを構築 | ブランドの世界観を伝えたい/顧客データを持ちたい | 集客はゼロから。広告・SEO・SNSが必要 |
| 海外モール | Amazon(英・独・米など)、eBay、Etsy | まず売れるかを試したい/集客力を借りたい | 価格競争になりやすい。手数料とルールがモールごとに違う |
| 国内サイトの海外対応サービス | 購入代行・海外配送を代行するサービス | いまの日本語ECのまま、小さく始めたい | ブランド体験や顧客接点は限定的 |
| 卸向けマーケットプレイス | 欧州の小売店向けB2Bプラットフォーム | 雑貨・食品・ライフスタイル商材で、店舗に置いてほしい | 卸価格の設定と、まとまった在庫の用意が必要 |
どれか一つに決める必要はありません。私がよくおすすめするのは、モールや卸で「どの商品が、どの国で動くか」を確認し、手応えのあった商品と国に絞って自社ECを育てるという順番です。
欧米向けにつまずく5つのポイント
1. 税金:VATと関税を「誰が」払うか
英国とEUでは、海外からの少額の荷物にも付加価値税(VAT)がかかります。
- 英国:135ポンド以下の荷物は、販売時点で販売者(またはモール)がVATを徴収・納付する仕組みです。自社ECで英国の消費者に直接売る場合は、英国のVAT登録が必要になります。
- EU:150ユーロ以下の荷物は、IOSS(輸入ワンストップショップ)に登録すれば、販売時点でVATを徴収し、まとめて申告できます。登録しないと、受取人が配達時にVATと手数料を払うことになります。
- 米国:少額貨物の免税(デミニミス)の扱いが2025年に大きく変わり、少額でも関税の対象になるようになりました。最新の条件は必ず確認してください。
欧州の消費者は、受け取り時に追加料金を請求されることを非常に嫌います。受け取り拒否は、送料の往復と商品の損失を意味します。税込み・関税込みの総額をチェックアウトで見せることが、結果的にいちばん安上がりです。
2. 返品:「返品不可」は通用しない
EUと英国のオンライン販売では、消費者は原則として商品受け取りから14日間、理由を問わず契約を撤回できる権利を持っています(食品や名入れ商品など一部例外あり)。日本のECでよくある「お客様都合の返品はお受けできません」は、そのままでは使えません。返品の受付方法、返送先(日本まで戻すのか、現地に拠点を置くのか)、返金のタイミングを、事前に設計しておく必要があります。
3. 決済:国によって「いつもの払い方」が違う
クレジットカードとPayPalは共通ですが、それだけでは取りこぼします。英国ではApple Pay・Google Payが日常的に使われ、Klarnaなどの後払い(BNPL)も広く浸透しています。オランダのiDEAL、ドイツの請求書払いのように、国ごとに定番の決済手段もあります。
4. 表示:サイズ、単位、成分、安全情報
アパレルならUK/EU/USのサイズ表記、食品なら英語の原材料・アレルゲン表示、雑貨でもEUの一般製品安全規則(GPSR)にもとづく事業者情報の表示が求められます。商品ページの情報量が、日本より多く必要だと考えてください。
5. 物流:送料と日数の“期待値”
欧州の消費者は、国内配送なら2〜3日、送料無料ラインありが当たり前という感覚で比較します。日本からの発送で1〜2週間かかるなら、その理由(手づくり、受注生産、日本からの直送)を前向きに伝え、追跡番号を必ず提供しましょう。販売が安定してきたら、現地倉庫(フルフィルメント)の利用も検討の価値があります。
越境ECの始め方:7つのステップ
- 売る商品を絞る全商品を並べるのではなく、海外で「理由をもって選ばれる」商品を3〜10点に絞ります。
- 最初の国を決める英語で完結する英国・米国から始めるか、特定の関心が強い国を狙うか。規制と物流のハードルも含めて判断します。
- 規制と税金を確認する製品規制(CEマーク、GPSR、食品規制)、VAT・関税、GDPR。ここを先に押さえます。
- 販売チャネルを選ぶモール、自社EC、卸。予算と人員に合わせて組み合わせます。
- 商品ページを“翻訳”ではなくローカライズする現地の人が検索する言葉、比較するポイント、安心材料を入れます。
- 物流・決済・返品のしくみを整える総額表示、追跡、返品窓口。ここが信頼の土台です。
- 集客して、データで見直す検索、SNS、インフルエンサー、PR。数か月単位で反応を見て、商品と国を入れ替えます。
現地の目があると、何が変わるか
越境ECは「日本から全部できる」のが魅力ですが、現地でどう見えているかだけは、日本からは見えません。商品ページの英語が不自然でないか、価格は現地の競合と比べて妥当か、届いた梱包はどんな印象か。ロンドンから実際に購入・受け取りして確認するだけでも、改善点はたくさん見つかります。
私は、英国・欧州向けの商品選定の調査、現地消費者への座談会、英語の商品ページのチェック、SNSやインフルエンサーでの集客まで、現地側の窓口としてお手伝いしています。
よくあるご質問
越境ECを始めるには、海外に会社を作る必要がありますか?
必須ではありません。日本の法人のまま、自社ECや海外モールで販売できます。ただし、英国やEUでは販売方法によって現地のVAT登録が必要になるほか、製品によってはEU域内の責任者(輸入者や代理人)を置く必要があります。
最初はAmazonなどのモールと自社ECのどちらがいいですか?
集客力を重視するならモール、ブランドの世界観や顧客データを重視するなら自社ECです。欧州では、まずモールや卸向けマーケットプレイスで反応を見てから、自社ECに力を入れる順番を選ぶ会社も多くあります。
送料や関税は、お客様負担にしても大丈夫ですか?
可能ですが、受け取り時に関税や手数料を請求されると、欧州の消費者は受け取りを拒否することがあります。価格に含めて前払いにする(DDP)か、チェックアウト時に総額を明示するのが、返品やクレームを減らすうえで効果的です。